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【映画「龍宮」編】
一昨年に発足された天龍村アートプロジェクト(T.A.P)。今年、彼らは「龍宮」という長編映画を製作している。天龍村を舞台に、山村で生まれ育った父・守と、父親にしか心を開かない娘・エリカとの親子愛を描いた作品だ。監督はT.A.Pの発足者であり現代表の早稲田大学4年・太田信吾さん。大学で演劇映像を専攻している彼は、卒業制作、そしてこのプロジェクトの集大成としてこの作品を構想し始めた。


太田:この映画を通して、人に対して理解を示すことの大切さを伝えたいと思っています。ピュアな人たちって、傍から見ると頭がおかしいんじゃないかって批判を受けやすいんですけど、そんなリスクを背負いながらも何かに一途なんです。エリカ親子の不器用な愛は、狭い村のなかで環境がそうさせたのかもしれないですね。また最後のシーンは絶望の中にも前向きな希望や決意の表れが感じられて、とてもメッセージ性の強いシーンになったんじゃないかと思っています。


この映画でヒロイン・石川エリカを演じるのは女優の小深山菜美さん。

小深山:エリカは父親にしか心を開かないんです。それは歪んでいる親子の愛なんですけど、その中にもどこかピュアな部分もあって。でもやっぱり、そう頑ななのは良くない。父親以外の誰かを信じたり、認めたくないことも認める努力をしてみたりすることが大切なんじゃないかって思いました。思い込みを捨てたときに、新しい何かが生まれることもあると思うんです。


村に嫁いだ母・美和の息子、宮川高志を演じるのは俳優の安西良さん。美和と高志は現代の若い世代の親子をモデルにしており、会話が無いという設定だ。ここでエリカ親子との対比が見えてくる。

安西:僕はエリカ親子のある意味狂った愛に触れることで、家族愛に抵抗があるかもしれない若い世代の人に、家族っていいなって感じてほしい。自分も演じながら、エリカ親子の愛は狂った家族愛ですけど、家族っていいなぁと思えました。愛があるだけいいなって。


天龍村は素晴らしい自然に溢れている。それをあえて客観的に撮ることによって、作品に締まりを出したという、スチールカメラマンの竹下太郎さん。
竹下:守とエリカが一緒に蚊帳の中で寝るシーンは見どころです。高校生の女の子が親とくっついて寝るなんて常識からしたらおかしいのかもしれないですけど、そこには親子愛が存在していて、でもやっぱり同時に悪いものも介在しているんですよ。この映画の良いところは人間の悪い部分がきちんと描かれているところだと思うんです。最近の映画は愛をすごくきれいに描くけど、そんな単純なものじゃないと思う。もっと暗い部分もあるはずなんです。それがこの映画には描かれています。


最後に、この映画を撮り終えての感想を監督に伺ってみた。

太田:天龍村での撮影は自分にとって人生の中で貴重な時間でした。この映画を通して、映画を撮るということに対しての希望も持てましたね。今まで学生という部分で甘えていたところも正直あったんですが、皆の気迫を受けて、自分も負けていられないなと思いました。天龍村に行った当初は「大学生が何しに来たんだ」みたいなところもあったんですが、段々分かり合えるようになってきて、一昨年・去年とT.A.Pとして地道な活動を続けてきたからこそ、この映画も撮れたんだと思います。見てもらった人には、この映画を通して身近な人に対して考えが少しでも変わって、その関係が良い方向に向かえばいいなと思っています。


一見、全く関係がないかのように見えるボランティアとアート。その融合を体現した太田さんは、仲間たち、そして天龍村の人々から大きな信頼を得たのだ。「皆に何か恩返しできるとしたら、この映画をたくさんの人に見てもらえるようにすることですかね」。その言葉に、太田さんの謙虚さと、監督としての強い意志を感じた。


【彼らから見た天龍村編】
天龍村は長野県の中でも少子高齢化が最も深刻な村だ。しかしそこには都会では体験できない“充実した”生活がある。「地に足がついた生活なんですよね」。太田さんはゆっくりと、その魅力を語り出した。

太田:天龍村での生活は規則正しいんです。もう本当に朝早く起きて夜早く寝るっていう生活なんですよね。なので、撮影自体は朝早くから始めて夕方には切り上げられて、とりこぼすことなく、順調にいきました。あと、天龍村の人たちはとても優しい。でもそれは天龍村の人だけが持っているものではないと思います。誰もが持っているものなんです。それを再認識させてくれたっていうことに感謝していますね。


今回の撮影を大きく支えたのは、昨年からT.A.Pの活動に携わっていた伊藤愛さんだ。

伊藤:私は生活のコーディネートを担当していました。食材などは協力してくださっている村の方々から頂いたりしていました。村の人とは本当に仲良くなれて、人間関係の面でかなり助けられましたね。一番怖かったのは食中毒ですね。とても暑い時期の撮影だったので、作り置きができなかったんです。

小深山:天龍村の人たちは、私たちの存在そのものを信じてくれているなぁと感じました。裏を見ようとしていないんです。東京にいると人の悪い部分を探そうとしてるなとか思っちゃうんですけど、そういう気持ちにさえならないくらい、まっすぐに見てくれました。でも東京にもそういう温かい人はいると思うし、自分もそうなれたらいいなって思います。また、人の良いところをもっと見れるようになりたいです。

安西:僕は田舎育ちで、もともと自然が好きだったんです。むしろ今、東京のほうが住みにくくて。天龍村の人たちって心がきれいで、皆が協力してくれるんですね。他人を受け入れないっていうことがないんですよ。近所付き合いも良いし、知らない人でも助けてくれます。それはあんまり東京にはないこと。東京は人同士が関わりを持たないですよね。

竹下:僕は田舎が特別な環境とは思っていなくて、逆に東京とかの方が異常だと思っているので、あんまりもの珍しいとは思いませんでした。天龍村の人たちは自分に忠実というか、人間的な生活を送っているなと思います。夜は暗くなって眠たくなったら寝るし。東京にいると、そういう生活は送れないですよね。天龍村での生活の方が実は普通なんだろうなぁと感じました。


太田さんがこの村に通い始めてから、約三年の月日が経つ。基盤を固めたT.A.Pは、これからどんな活動を展開していくのだろうか。「最近では村の人からの要望も様々聞くようになってきたので、これからもっと東京の若い人たちにも協力していって欲しいですね。ボランティアもアートも」。大切なのは村との関係を持続していくこと。太田さんは常に先を見据え、天龍村の明るい未来を描いているのだ。

記事:原田有里子



次回の更新予定は9月23日です。

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