vol.27 隠し味に科学はいかが? ツイート

2016年6月10日

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生きることは食べること。毎日の食事が豊かになればきっと人生は幸福なものになるはずだ。しかし、いざ料理をしてみようと思い立ち、レシピを片手に始めてみてもなかなか思い通りにおいしくできない。それは何故なのか。科学が足りていないからではないだろうか。料理を科学的な視点で見てみると、おいしく作るコツや新しい料理の可能性が見えてくる。今回は宮城大学で分子食品学、分子調理学、分子栄養学を専門に研究されている石川伸一さんにお話を伺った。


石川伸一
宮城大学食産業学部准教授。「食」の教育と研究に携わっている。専門は、分子レベルの食品学、調理学、栄養学。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、『必ず来る!大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)などがある。分子料理・分子調理ラボ(http://www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しており、関心は「食×科学×芸術」。
ブログ『夜食日記』(http://yashoku.hatenablog.com)を執筆。



————そもそも分子調理学とはどういったものなのでしょうか。


料理におけるメカニズムを発見することです。例えば、ちょうどよい塩加減や混ぜる順番のコツといったことを科学的な視点で研究しています。これは、フランスの物理学者であるエルヴェ・ティスという人が提唱した「分子ガストロノミー」を元にしたものです。



————分子ガストロノミーというと、週刊少年ジャンプで連載されている『食戟のソーマ』に出てくるような、最新鋭の機器を使った料理を作ることというイメージがあります。


厳密には、新しい料理を創作することは分子ガストロノミーではないんです。ティス氏は分子ガストロノミーを「技術ではなく科学である」と位置づけ、新しい道具や手法を用いて斬新な料理を創作する技術とは異なると主張してきました。つまり、分子ガストロノミーは現象のメカニズムを見出すことであり、知識を応用して斬新な料理を創作することとは異なるんです。ティス氏はその態度を崩さなかったので、料理人との間でうまくいきませんでした。そこで私は、料理人と科学者双方がうまくいくような考え方や手法はないかと考え、分子ガストロノミーではなく分子調理という言葉を使っています。分子調理は、「おいしい料理を分子レベルで調べる」分子調理学と「分子レベルで調べた原理を応用しておいしい料理をつくる」分子調理法を合わせたものと定義しています。



————科学者でもプロの料理人でもない私たち一般人が、料理を科学的に学ぶことはできるのでしょうか。


できると思います。しかし、そもそも一般の人がどこまで料理における科学的知識を求めているのかなという疑問はあります。なぜかと言うと、料理は科学的知識が無くても、なんとなく作れてしまうからです。科学的知識が必要だという実感がないとなかなか学ぼうと思えないでしょう。しかし、より再現性が高くておいしいものを作るには科学が必要になってきます。



————では、私たち一般人はどこで料理における科学的知識を得ることができるのでしょうか。


論文や専門書になると思います。しかし、それらは書いてあることが難しく、理解しづらいんです。逆に簡単なレシピ本だと科学的な説明は載っていないですよね。おそらく今はその中間のものがありません。池上彰さんのように専門的なものをわかりやすく説明する人が必要ですね。私自身、クックパッドさんのウェブサイトでコラムを書かせていただいており、一般の人にわかりやすく伝える役割の一部は担っていきたいと思います。



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