月曜日から土曜日、朝の15分間。朝ドラは人々の毎朝をつくり、毎日をつくる――2015年後期に放送されたNHK連続テレビ小説「あさが来た」。放送中は高視聴率を記録し、毎朝の放送を楽しみにする人の声も多く見られた。そんな「あさが来た」の脚本を担当された脚本家の大森美香さんに、朝ドラにおける脚本家の仕事について、また朝ドラの特徴と視聴者との関係について伺った。
大森美香(おおもり・みか)
福岡県出身の脚本家・演出家・映画監督。初の脚本・演出作品は、フジテレビ契約ADを休職中に執筆した「美少女H」(1998年)の第12話「十七歳の記録」。フリーランスに転じた後「カバチタレ!」(2001年・フジテレビ)、「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」(2006年・日本テレビ)、「聖女」(2014年・NHK)などの脚本を執筆しヒット作を生み出す。NHKの連続テレビ小説の脚本では2005年後期に「風のハルカ」を執筆した。
――NHKの連続テレビ小説(以下朝ドラ)枠は「あさが来た」の放送が終わり、今は「とと姉ちゃん」が放送中ですね。「あさが来た」の放送を終えての率直な感想はいかがですか。
寂しいですね。終わった直後は「ああ良かった! 本当によく終わった!」という感じだったんですよ。わたしは1年半ほど「あさが来た」の脚本を書いていたんですが、最後までちゃんとひとりで書き終えられるかドキドキしていた部分もあったので、成し遂げられたと思ってほっとしていたんです。でも今になってみてちょっと寂しい、というのが正直なところでてきました。
――1年半ほど脚本を書かれていたとおっしゃいましたが、脚本家のお仕事というのはどこから始まるのでしょうか。「あさが来た」は企画ができてから大森さんのところに持ちこまれたのですか。
いいえ、「あさが来た」の場合、題材は一緒に探していきましょうということで始まりました。このドラマの制作統括・佐野プロデューサーから「2015年後期、大阪放送局制作の連続テレビ小説を一緒にやりませんか」と声をかけていただいたのが最初です。それから題材を検討し、書き終わったのが今年の2月になりますね。
――そうするとやはり放送と執筆が並行する期間もあるわけですよね。視聴者の反応を見ながら物語を変えていくことはあるんですか。
せっかく皆さんの声が聞こえるのでなるべく聞いていきたいという思いはあるんですが、それによってストーリーが大きく変わるということはないと思います。ただ主軸ではないところで、この役者さんとこの役者さんは相性がいいから2人が絡むシーンを増やしてみようとか、そういったことはわりとありますね。
――朝ドラは放送の枠も特殊ですよね。15分間を月曜日から土曜日まで毎日放送、となるわけですが、物語の起伏の作りかたなどは工夫されているのでしょうか。
毎回の放送のなかに起伏の波を作らなければならないというのはかなり意識して心掛けていました。その起伏づくりは書いていて病みつきになるというか、いろいろな内容を詰め込むのが好きなので楽しくやっていました。
――だからこそその15分が濃密でおもしろい、というのは「あさが来た」を見て感じていました。
そんな風に思ってもらえて嬉しいです。そう、密度が濃いんですよね。わたしは楽しく笑って見られるというか、クスリと笑えるのが好きなんです。しかも朝放送されるドラマなので「1日1クスリ」はできるように作ろう、という気持ちもありました。
――本当に1回1回笑えるところやじーんとするところがあって……。やはりそのようなことは意識されていたんですね。それにしても、朝ドラの台本を続けるのは並大抵ではない気がします。
台本はどの連続ドラマでもだいたい1週間分が一つの本になっているんですね。なのでわたしも6本分書いて送る、ということをしていました。1週間分の放送時間は普通の連ドラより長いので書く方はけっこう大変なんですね。でも、視聴者には大変そうと思われない方がいいんです。見る人にはただ楽しんでもらえたらと思っていました。
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