――そのとき、たとえば仕事を辞められる場面などで不安はなかったんですか?
不安だったと思いますけどね、でもそれ以上にわくわくしていましたね。
なんかチャレンジしたかったんでしょうね(笑)それまでスポーツをやってい
て、目標というかそれに向かってみんなで一緒にワイワイやっていくっていう状
態がどうやら好きみたいで。
その仕事を退職するということに関して不安があっても、それより「やってみた
い」とか、「今しかないんじゃないか」っていう気持ちのほうが大きかったです
ね。
――左京さんの仕事に関する考え方や、やりたいことに、学生時代からのルーツ というような、通じているものはありますか?
まず一つに「この人かっこいいな」と思った人がいたんですよ。
それは大学のラグビー部の先輩で、外務省に勤められていてイラクで亡くなられ
た、奥克彦さんという方なんですが、その方が一度ラグビー部に帰ってこられて
、自分のお仕事の話をされたことがあったんです。自身のお仕事への思いを飾ら
ない言葉で話してくださったのがすごくかっこよくて。
そういう志とか思いを持って仕事ができればいいな、自分はこういう仕事をやっ
てるんだと言えるようになれればいいなぁと強く思って、実際卒業するころに、
そういうことを思い出したりしましたね。
あとは仕事に関する考え方についてなんですが、あるときテレビを見ていたら、
トヨタの社長室だか会長室だかの様子が映されていて、そこの色紙に「利他」と
書いてあったんですよ。
それでどんな言葉なのかなぁと思って調べたら、他人の利益とか、人のためにな
ること、という意味だったんです。それは利他の前に「自利」っていう言葉が付
くと、「他人の利益を考えることが結局は自分に返ってくるから、まずは他人の
ことを考えるんだ」っていうことになるんですね。
「利他」はお客さんや、クライアントのためっていうことを表していると思うし
、そのためにモノやサービスを提供した結果、「自利」という部分で経済的な収
入や、自分自身の成長、人との出会いなど、自分にとってよかったなと思えるこ
とがあるんだと思うんです。
だからそれを見たときに、仕事って、あるいは働くということってそういうもの
なんだよな、と思ったんですよ。
――私は、ときどき就職とか将来のために何かをしなきゃいけないんじゃないか と思うこともあるんですが、左京さんが学生時代にやっていたことで今も生きて いると思うことってありますか?
実はラグビーをやってたころと、今でほとんど考えていることって変わってない
んですよね。
仲間がいて、何か目指すところがあって、一緒にみんなでそれに向かって努力し
ていくこととか、それに結果が出ていくっていうことも同じで。
ラグビーをやっているときに教わった言葉の一つに、「ラグビーは修養である」
というのがあるんですよ。ラグビーってすごくフィジカルな面が特徴だと思うん
ですけど、それは「人格を磨き高めていく」というような、精神的な言葉なんで
すよね。
それがすごく仕事も共通しているなと思って。仕事をする中で磨かれて、叩かれ て、へこんだりもしながら頑張っていくうちに、自分自身は成長していく、とい うように。そう考えると、学生時代にラグビーをやっていたことは決して損じゃ ないというか、むしろなんて素晴らしい経験をさせてもらったんだと思うんです 。
なので、学生の方に何か言うとすれば、何か一生懸命やったこと、自分の全部を
懸けて打ち込みましたということがあると、それはきっと仕事にもつながるし、
そこで経験したことや感じたことは全部自分のものになって、後の自分につなが
ってくるということですかね。
変に「これをやっておくとプラスになるだろう」ということを考えすぎないほう
がいいかもなと。
学生時代に何してましたかと言われたときに、全てが就職のためのプロセスみた
いだったら寂しいじゃないですか。
「それって何になるんだ」って人から思われることでも、自分がそれを大好きで 仕方がないとか、それをやってるときのわくわく感は他には代えがたいっていう ことがあればとにかく没頭してやってみるっていうのは大事な気がしますね。 。